2017年7月21日金曜日

アルカディア



風の行方を知らないままで、


君は風を探している
風は君の唇にさえ宿っているというのに
それとも、それはどこか見知らぬ世界の風で


光がここに射してくる
草の穂の襞にも
僕の心の内側にも


光が、ここに射してく、る、


まるでアルカディア
光を溜める睫毛の先も
君の震える心の淵も


まぶしそうに目を細めてどこか上の空で
君は風を探している
このとき、この瞬間の気持ちを


 キット僕タチハ、コウシテイラレル、
 キット何モ持タナクテ、言葉サエモ、


そっと君の手に手のひらを重ねる午後
僕も風を探している
風にその唇をやさしく許されたままで


光が、ここに射してく、る、



2017年6月19日月曜日

第二十二夜~第二十四夜 コインと喫茶店と隠れ里



第二十二夜
夢のはなし。駅。人々が集合している。あのひとと何気なく待ち合わせをしていた。視線を交わす。これから少しのあいだ、別れるあのひとに手のひらのコインをあげる。目印になるように。再び会えるように。


第二十三夜
夢のはなし。バスに乗っていた。街の角を曲がろうとした時、古びた喫茶店が窓向こうに見えた。「英国紳士殺し」と店看板には書いてあり(いたずらではありません、の注意書き)、窓際で一人の紳士が今しもティーカップを口に運ぼうとしていた。スロウモーションのように。


第二十四夜
夢のはなし。見知らぬ誰かから土地を譲渡された。その土地は隠れ里のような所で、いくつもの集落が点在していた。塀や防風林で囲われているもの、湖上に浮かんでいるもの、水没しているもの。車を飛ばしてめぐっても果てしがないように思われた。




■乗り物の窓から(特に電車が多い)眺めている風景は風変わりなものばかりで、なかなか面白いです。土地をもらった夢は初めてでした。その土地の集落に、人が住んでいたかどうかは定かではないのですが、どの集落に住もうかと夢の中で考えたりしたのでした。ユートピアなんだ。だから、無人でもいいのかも知れない。



2017年4月25日火曜日

水中花もしくはオフィーリア



それはひとつの水だった
ある日流れるようにわたしに注ぎ込んだ
それはひとつの風だった
吹き過ぎてなお心を揺さぶるのは


少女は春の花を摘む
長い髪を肩に垂らし何にも乱されることもなく
少女は白い花を摘む
そして川は流れていた 雪解け水が冷たくて


光ははかなく移ろっていく乾いた水
そこに流れようとしていた 水ではない激流が
花はけなげにも今を盛りに咲こうとして
その花束はその花冠は誰のためのもの


 あなたに逢うためにわたしは水を渡った


少女は見知らぬおとこのひとを見るだろう
彼の瞳の奥にはふるえる死の光がある
傷を負って赤い血はまるで花のように
その花束はその花冠はあなたのためのもの


その花を真っ赤に染めて川は流れる
その花が白いのは誰かのための祈りに似ている
その花を捧げるようにわたし自身を投げて
見つめ合って ずっとそれを待っていたと知るだろう


 あなたを愛するためにわたしは水を渡った


おとこのひとは少女をやさしく抱きしめて
少女は彼にくちづけをした
そしてそのままふたりは水のなかに溺れた
絡み合う長い髪 まるで恋に溺れるように


 水のなかにこぼれる花
 静かに落ちてゆく花
 約束された婚姻の
 

それはひとつの水だった
流れるようにわたしに注ぎ込む
それはひとつの歌だった
くちずさんでなお心を揺さぶるのは
或いはたましいさえも




2017年1月25日水曜日

夜毎の蝶



誰も知らない そんな夜、


少女のぽっちり開いたくちから一羽の蝶が
それはすみれいろの 夢見るひとのうすい涙のような
蝶が飛んでいった 音もなく


(恍惚めいた ひみつの儀式)


少女はそんなふうに夜毎に蝶を吐き出した 
目覚めることのない眠りに包まれて 
朝も昼もあどけない瞳を閉じたまま


(まるであえかな人形のよう です)


蝶は窓の向こうで燃え上がり夜明けとなった
羽根の向こうに知らないくにがある
行きたくて
指をのばしてつかまえたくて
そこですべて燃えてしまう前に


蝶は花のように燃え上がり夜明けとなった
たくさんの色彩が奏でる音楽のような
けれど一瞬で消えてしまう美しいもののいのち


(その一瞬に 確かにある永遠を)


羽根の向こうの知らないくにを
きっとすみれいろから黄金色に燃えるそのくにを
夢のまた夢に見ている


(わたしのなかに眠っている ひみつの少女)


いつか少女を揺り起こしてそのかぼそい手を握り
窓を越えて飛んでいくだろう
たくさんの蝶が形作る夜明けのその羽根の向こう


心は (たましいは)


燃え上がり ひとつの炎となる



2016年12月21日水曜日

ホワイトウルフのバラード -Balada Lupului Alb









「私は他の世界の入り口です、私の体であなたの道を開くだろう、そしてあなたの通り過ぎた後、私は残るだろう、穏やかな渓谷の青い夢」

偶然見つけたこの曲にものすごく魅かれました。Daniel Avram というルーマニアの歌手が歌っています。ルーマニア語はスペイン語やロシア語とどこか似ていると思いながら。この歌はオオカミの歌ですが、森林に今も生息しているこの国ではオオカミ男の伝説もあり、特別な思いを持っているようです。古代ローマ時代、ルーマ二アはダキアと呼ばれ、ダキア人にとってオオカミはシンボル的な動物だったらしい。自らを「オオカミたち」と呼んでいたそうです。私にとっても神秘的な動物で、そのどこか遠いまなざしには魅かれます。



2016年11月21日月曜日

飛ぶ鳥を探す日



青いってくちにして街は海になる花びら泳ぐ彼方の岸を


まぶた濡らす緑雨は君に降りやまず海の果てに飛ぶ鳥を探す日


永遠に待ちぼうけです目を閉じて探して君の赤い夕焼け


いくたびか甦る夢窓向こう回遊してゆく紫陽花の雨


野の果てにさびしく燃える火、橙(だいだい)にワスレグサ咲き誰を忘れて


風の音それともあれは鳥の声海を思えば白い航跡


また秋に触れるさびしさ金色の穂を揺らしては風の旅人


銀笛は遠く流れて待合室おもいでだけの鳥籠を抱く


飛ぶ鳥をいくつ見送る季節かとまた群青の海になる日々



2016年9月27日火曜日

あいしているの舟



誰も知らない海でした、(けしてあなたのほかには)


舟は出てゆく
夏の入り江、あなたの瞳の奥を


白い鳥は羽根を休めることなく
空にすべる手紙


返事はいらない、ただひとことのさよならを


     *


誰かをおぼえて湖になる、(それがあなただとしても)


舟は出てゆく
秋のさざ波、あなたの吐息の影を


赤い落葉は誰にも知られず
水面にこぼれる告白


口に出していえない、あいしているのすべて