2017年4月25日火曜日

水中花もしくはオフィーリア



それはひとつの水だった
ある日流れるようにわたしに注ぎ込んだ
それはひとつの風だった
吹き過ぎてなお心を揺さぶるのは


少女は春の花を摘む
長い髪を肩に垂らし何にも乱されることもなく
少女は白い花を摘む
そして川は流れていた 雪解け水が冷たくて


光ははかなく移ろっていく乾いた水
そこに流れようとしていた 水ではない激流が
花はけなげにも今を盛りに咲こうとして
その花束はその花冠は誰のためのもの


 あなたに逢うためにわたしは水を渡った


少女は見知らぬおとこのひとを見るだろう
彼の瞳の奥にはふるえる死の光がある
傷を負って赤い血はまるで花のように
その花束はその花冠はあなたのためのもの


その花を真っ赤に染めて川は流れる
その花が白いのは誰かのための祈りに似ている
その花を捧げるようにわたし自身を投げて
見つめ合って ずっとそれを待っていたと知るだろう


 あなたを愛するためにわたしは水を渡った


おとこのひとは少女をやさしく抱きしめて
少女は彼にくちづけをした
そしてそのままふたりは水のなかに溺れた
絡み合う長い髪 まるで恋に溺れるように


 水のなかにこぼれる花
 静かに落ちてゆく花
 約束された婚姻の
 

それはひとつの水だった
流れるようにわたしに注ぎ込む
それはひとつの歌だった
くちずさんでなお心を揺さぶるのは
或いはたましいさえも




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